2011年01月03日

斎藤誠「競争の作法」と大竹文雄「競争と公平感」の比較考察

ご高承のとおり、2010年12月25日の日経新聞「エコノミストが選ぶ2010年経済図書ベスト10 」の結果は次のとおり。

nikkei.JPG

斎藤誠先生の「競争の作法」が栄えある一位(>ω<)/
そして、大竹文雄先生の「競争と公平感」は3位!(`・ω・´)


一方、週刊ダイヤモンド2010年12月18日号「経済学者・経営学者・エコノミスト162人が選んだ2010年の『ベスト経済書』 」の結果は、、、

【第1位】『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』大竹文雄
【第2位】『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』マイケル・サンデル
【第3位】『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』藻谷浩介
【第4位】『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』岩崎夏海
【第5位】『デフレとの闘い 日銀副総裁の1800日』岩田一政
 ・・・(以下略)

で、「競争と公平感」が1位。しかし「競争の作法」はランク外!!(実は14位)

ここでの主たる関心は、「どうしてこのような差が生じたのか」、また「これらの著作は何が違うのか」など。

そんな訳で、それぞれの書評を書いてたら日が暮れてしまうので、特徴比較をしてみるテスト(´ω`)

1.「競争の作法」
saho.jpg

基本的には、SNAとか労働力調査、家計調査など、誰でも入手できる公的統計の数字をそのまま並べているだけ。
例えば、


12002〜2007年の「戦後最長の景気回復期」と22008〜2009年の「リーマンショック前後」では、それぞれ

実質GDP +11.1%、▲8.6%
就業者数 +1.3%、▲0.8%
雇用者報酬 +2.6%、▲2.1%
現金給与総額 ▲1.4%、▲3.0%

という変化率になっており、
見かけほど、「戦後最長の景気回復」で国民は豊かさを得ていないし、リーマンショックでは何も失っていない。

みたいな簡単な論理展開。

著者も認めるように、

「だれでも入手できる統計数字ばかりを並べるだけで、高度な計量分析を示していない」(原文ママ)

だがそれがイイ!(・∀・)

専らエコノミスト業は、身近な統計数字に四則演算加えて見栄えの良いグラフを作り、分かりやすいロジック展開をするお仕事でございまして(言い過ぎ?!)
そういう意味では、文字通り「raw material」がふんだんに入っている「競争の作法」はまさにネタ帳。
上述のGDPと雇用者数・現金給与総額の変化率の比較なんて、これだけで1本レポートが書けてしまうようなアレで、エコノミストからすれば垂唾ものでしょう(・∀・)ニヤニヤ

あと、個人的に興味深かった統計数字は以下。

厚生労働省『国民生活基礎調査』より、
全世帯の所得を高い順から並べていったときの、「上位20%の平均所得」と「下位20%の平均所得」はそれぞれ、、、

1997年 1469.8万円 146.9万円
2002年 1322.0万円 126.9万円

⇒1997年以降に大規模な雇用調整が行われたが、上位と下位の所得格差はずっと前から峻烈(10倍近く)であった。


う〜む。『国民生活基礎調査』は、福祉事務所が調査してる統計だから、福祉受給世帯が多めに出て、下位所得に下方バイアスがあるかもしれないけれども、「一億総中流が小泉構造改革で破壊された」といった怪しぃ言説には注視せねばならんと思うわけでございます^^

本書の論理展開は非常にストレートで、著者のポジションもあまりにも明確に表明されているため、読者からすれば「賛美」も「dis」も両方有り得そうな内容ですが、ネタ帳として悪か無いので読む価値はオオアリ^^

2.「競争と公平感」
kohei.jpg

この本はさっきの「競争の作法」とは全然別物!

競争と公平感について、最先端の論文・研究成果を引き合いに出しつつ、経済学的視点・進化生物学的視点・文化人類学的視点で縦横無尽に、叙述しまくっている。
かと思いきや、公的統計の二次利用の話が出てきたり、ニューロエコノミクス(脳神経 経済学)の話が出てきたり、正統な労働経済学の話題に回帰したり、とにかく目下の研究のフロンティアについて、フルコースのメニューが出される感じ。

とはいえ、足もとの社会の現状を踏まえ、時代の要請に答える経済学の研究成果を惜しげなく披露している点で、間違いなく良作(・ω・)!

斎藤誠先生の「競争の作法」とは違って、「誰でも入手・再現可能な数値」を使っている訳ではなく、「高度な計量分析による推計結果」が突然示されていたりもしますが、所得格差の拡大が高齢化によるもの(下図)といった、基本もしっかり抑えていて良いと思います!!

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(内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料(2006年1月19日)」より引用)

興味深かったというか、本当に「その通りだなあ」と思ったのは、第3章6節「目立つ税金と目立たない税金」。
要約すると、

スーパーとかで商品の店頭表示価格に、「消費税が含まれている」と「含まれていない」場合よりも売上が減少してしまう(最終的な消費者の負担価格は同じなのに)。


こういった、伝統的な経済学では想定し得ない「錯視」は、労働市場にも同様に言えて、社会保険料の「雇用者負担・事業主負担」はどちらも、手取り賃金に与える影響は中立なのに、実際は「雇用者負担」に多めに傾斜した方が「手取り賃金」は同じでも「(目に見える)額面賃金」は高くなるので、労働者は(就活用語で言えば)「エントリー」を増やす!と^^

やはり、僕がこの研究の重要なインプリケーションだと思うのは税制だと思うわけです(´・ω・`)

たまたまググって出てきたツイッター上でのアンケート結果ですが、(有効回答数がアレで統計的にどうかとは思いますけども)「消費税の増税・法人税減税に反対」という回答が全体の74%と圧倒的に多くなっておりまして。
日経新聞の9月のアンケートでは、消費税上げ 賛成46%、反対44% という結果になりましたが、経済紙に限定せずに、一般紙に対象を広げていけば、反対の割合は高まるでしょう。

やはりその、「消費税」は、日々の日常生活で「目に見える税」だから、「下げて欲しい。」
一方、日常から遠いところにある「法人税」は「目に見えない税」だから、「下げても俺らの生活には関係ネーお!」
的な国民意識が醸成されやすいのかと思います。でも書いてみれば当たり前のことですなあ・・・。

3.最終的な結論

まとめますと、

1斎藤誠「競争の作法」⇒分かりやすい・今すぐ使えるネタを探している人にウケる!
2大竹文雄「競争と公平感」⇒経済学のフロンティアを色々垣間見たい、知的好奇心のある人にウケる!


みたいな感じでしょうか。
僕は後者に大変刺激を受けましたが、一方、実務上では、前者を読んで非常に良かったと思います。


初エントリーで長めになりましたが、次回以降はもうちょっと短めになる予定(^ー^*)/

ヨロシクネー!
posted by あうあう at 12:24| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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