2012年01月30日

書評「アイデンティティ経済学」

アイデンティティ経済学 [単行本] / ジョージ・A・アカロフ、レイチェル・E・クラントン (著); 山形浩生、守岡桜 (翻訳); 東洋経済新報社 (刊)

これは読むべきかどうかは分からないですけど、なかなか示唆に富んでて良かったです。

落語家の故・立川談志師匠は、いみじくも
「人間のあらゆる行動は不快感から生ずる」
としばしば仰っておりましたが、これって実に深い言葉ですよね。

例えば、
「冬は厚着をする」⇒「厚着しないと寒くて不快だからそうする」
「ボランティアに行って人助けする」⇒「ボランティアしないと不快だからそうする」

そして、そこから導かれる結論は、
「現状は正解」
ということになります。(∵ 現状に不快感を感じているならば、それを変えようとしてる筈だから。)

このような行動を経済学的に説明するのが、アカロフの「アイデンティティ経済学」です。

訳者の山形浩生氏の解説を読めば、同書のエッセンスは大体分かってしまうのですが、
伝統的な経済理論における「古典的な効用」に、「アイデンティティ効用」を足し合わせたものを、
人間は最大化しようとして行動する。という考え方を、色々な事例で説明しています。

「古典的な効用」の分かりやすい例は、労働者供給を説明する際に用いる効用関数でしょうか。
労働者は、働くことで賃金(w)を得られる一方で、働くほど余暇(l)は失われる。
wが増加すれば効用は増えるが、それに比例してlが失わるので、効用は下がる。
労働者は、効用関数U=u(w,l)を最大化するように、「どれだけ働くか」を決める。


そして、これにプラスするのが、「アイデンティティ効用」です。
人は、自らが所属する社会的カテゴリを、意識的にしろ、無意識的にしろ選択する。
そのカテゴリの中には「どう振る舞うべきか」という規範・理想がある。
規範・理想と一致した行動を取れば、アイデンティティ効用の利得はプラスとなり、逸脱した行動を取れば、マイナスとなる。


例えば、学校の不良グループに属している人間は、授業をサボったり、喫煙をしたりと非行に走る傾向にある。
将来の利得を犠牲にしてまで、そのような不合理な行動を取るのは、集団内で「そう振る舞うべき」という規範があるからに他ならず、
多少の経済的利得が損なわれようとも、規範と一致した行動を取って、アイデンティティ効用を上げようとする。
こんな感じですかね。
いわゆる「破滅願望」を持つ人の行動原理も、これで説明できてしまうような気がします。

本書では、労働・教育・ジェンダー・人種など、様々な事例にこのフレームワークを適用し、人間の行動を分析しており、なかなか興味深い。

政策上のインプリケーションもありそう。
例えば、企業や経営者に愛着を感じ、一体感を持って働く労働者(インサイダー)は、多少の賃下げが行われたり、労働環境が悪化しようとも、離職しずらい。
一方、企業文化に馴染めない労働者(アウトサイダー)は、賃金が少し上がろうとも、辞めるインセンティブが大。
そこで、合宿研修とか積極的にやって、労働者みんなをインサイダーに引きこむことで、企業は結果的に労働コストを低く抑えることができる。と。

これって何か、選挙とか経済政策とかに応用できないですかね・・・。
posted by あうあう at 23:55| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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