2011年11月28日

書評:佐々木融「弱い日本の強い円」

弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ) [新書] / 佐々木 融 (著); 日本経済新聞出版社 (刊)

これ久しぶりに面白かったですね。超実用的。

為替なんてのは、それなりに分かってたつもりでいたんですが、
分かってたつもりだったのかもしれません。
勉強になった部分を箇条書きで。

1.通貨ペアの表記には、ちゃんとした秩序がある
ユーロ(EUR)はどの通貨に対しても先に来る(主語となる)。
その後は、英ポンド(GBP)、豪ドル(AUD)、NZドル(NZD)、米ドル(USD)と続く。
日本円(JPY)は韓国ウォン(KRW)以外、全てに対して後ろに来る。
だから、主語がどっちか分かってれば、例えばEUR/USDが1.3→1.4でユーロ高っていうのが一瞬で分かる。
しばしば日本人は、円を主語にして為替を読むので、混乱して良くないですね。
あと、経済官庁の公式資料なんかでも、時々「ドル/円」を「円/ドル」と表記してたりするので良くないですね。

2.円が買われるのは消去法ではない
これは、当たり前って言えば当たり前なんですけど、昨今の世界金融経済情勢を鑑みて、
「欧州経済は重症だし、米国経済もふるわないから、消去法で円資産に投資マネーが向かってる」
みたいな解説を、確かに今までは「ウンウン」と違和感なく聞いてしまってたような気がします。
でも実際は、世界経済が不調なら、米国や日本発の投資マネーが引き上げるので、USDもJPYも高くなるっていう視点。
さらにJPYの場合は、経常黒字(貿易黒字)が基調的な資本フローの圧力になるので、USD以上の通貨高招来になると。

3.S&P500が上昇すると、朝方のAUD/JPYは上昇する傾向
S&P500が上昇するような時は、投資マネーがリスクテイクで新興国に行くのでAUD/JPYは上がる。
同時に、S&P500が上がるような時は、まあ日経平均も上がりやすい。
それで、円安になったから輸出株に牽引されて日経平均が上昇みたいに見えるけど、実際そうじゃないよねっていう。

4.日本の祝日は、USD/JPYが下落しやすい
本邦輸出企業は、(対外証券投資を行う主体である)国内投資家がオネンネしてる祝日だろうが、
リーブ・オーダー(指値注文)」を入れて、少しでも有利な条件で円転を行うため。

5.経常収支でも、貿易収支と所得収支とでは、為替に与えるインパクトが違う
輸出企業は輸出製品の生産コストを自国通貨で支払う必要があるため、貿易黒字は自国通貨高につながる一方、
海外資産から得る所得収支黒字は、そのまま現地で再投資されるケースが多いので為替に中立。

6.(近年の)国外から米国債に向かう資本フローは為替に中立
低金利下では、為替リスクをとって米国債に投資しても、
リターンが為替差損で容易に吹っ飛ぶことから、ほとんど為替ヘッジ付きの投資なので為替相場に影響なし。

7.米国のイールド・カーブがスティープなら、米国債投資のフローは為替に中立。
短期金利と長期金利の差がデカいので、為替リスクを取らずにドルで短期資金を調達して、
そのまま長期債に投資した方がリターン大きい。

などなど、非常にタメになりました。

あと、本書の政策提言も狂おしいほど同意でしたね。
まず、わが国経済にとって重要なのは、対ウォンなど、クロス円で円安になることであり、
購買力平価仮説が示唆するように、長期の為替水準は内外物価水準差で決まるので、
やはり、国内のデフレを脱却していかなければ円高の克服は難しいだろうと。
で、そのデフレ脱却も中毒的なリフレ政策に頼るのではなく、
海外で稼いだ本邦企業の利益が、国内に還流し、内需が活性化するよう、
わが国の構造的・制度的・税制的な問題を解決していかなければならないだろうと。

全くその通りですね。佐々木さんと僕の問題意識がすごく共通していて、大変安心しました。

あと、最後に、これも狂おしいほど同意の一文を。

「日本は過去の外貨準備からのクーポン収入分を一般会計で使ってしまったツケをどのように払わされるようになるのだろうか。」

1年前に「外為特会と予算編成」というエントリーを書きましたけど、
外為特会で生じる剰余金は、見合いの債務を出すことでバーチャルな円収入とみなしているだけであり、
これを一般会計に繰り入れたって、新たに借金作ってることには変わらないのに、
「44兆円以下の新規国債発行」を今年も守れました!
なんて、どうして言えるんだろうってね。

復興債を皮切りに、年金債も何故か中期財政フレームの特例になるみたいですし、国庫短期証券だったら法律の範囲内でいくらでも新発していいっすよって。
1年でここまで形骸化した財政運営戦略おそロシア(´・ω・`)


いずれにせよ、佐々木融さんのこの本は非常に読んで良かったです。今年1番かも。オススメ。
自分でもFXのポジション取ってみたくなりましたね(*´ω`*)
posted by あうあう at 22:30| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月24日

[書評]日本破綻を防ぐ2つのプラン

日本破綻を防ぐ2つのプラン (日経プレミアシリーズ) [新書] / 小黒 一正, 小林 慶一郎 (著); 日本経済新聞出版社 (刊)

これもなかなか良かったですよ(*´ω`*)
たまたま、著者のお2人と面識があったので買ってみますた。

本書は、
財政再建を進めるためのプランA・・・小黒一正先生ご担当
財政再建に失敗したときに、ショックを和らげるプランB・・・小林慶一郎先生ご担当
という、面白い構成になってます。

僕も、ちょっと日本の財政再建って無理ゲーなんじゃないかって割とガチで思ってて、
この本はとても現実的な考え方をしていて良かったです(*´ω`*)

内容ですが、前半部のプランAはとても良かったですね。論理も明快でダブりもない。
特に社会保障予算のハード化のアイデアは、BOEなど世界の中央銀行が採用してる「インフレ目標政策」の枠組みを、社会保障にも応用したものであり、面白く読めました。
具体的には、
1.社会保障費を一般会計予算から切り離す。
2.政府は、社会保障給付水準とそれを賄うベース財源を決める(これは、例えば5年おきに改定できる)。
3.政府から独立した専門家機関が、給付水準を達成するための税率・保険料率を決定する。
この思想の背景は、「社会保障制度って金融政策と同じぐらい専門性が高いんだから、政治家の政争の具に使われちゃタマランよね〜」っていうことです。
ただ、専門家機関の人事が国会の同意によるものだとしても、果たして税率変更を国会の議決無しでできるような制度が作れるかどうか・・・。
英国の大蔵卿(Chancellor of the Exchequer)は一定の範囲内で勝手にできちゃったりしますが・・・。

後半部のプランBは、ちと残念。
言っていることは分かるけど、同じことを何度も繰り返していて、ややクドかった。
それだけでページ数が大分増えてしまったのではないか。
政府がファンドに出資して、民間資金を呼び込んで外貨資産を買うという発想は良いし、理論的にも財政破綻の影響を緩和するのは間違いないけど、果たして「世界経済への安定に貢献する」というロジックで、このような覆面的な外為介入政策が、国際社会で許されるかどうか。
仮にこれがOKなら、EFSF債を無制限に買うという介入もできるんじゃねとか思ったり。
(↑ただ、日本財政より欧州財政が死ぬほうが早かったらメシがマズイ!)

あと、8月に財務省がぶちあげた「円高対応金融ファシリティー」についての評価を聞きたかった。
趣旨としては、小林先生の目指すものと同じであるが、いかんせんどこまで呼び水効果があるか・・・。
財務省も民間企業向けに説明会とかやってましたが、これ聞いて「ウッヒョー」とか喜んでるビジネスマンの声を僕は未だに聞いたことが無いです・・・。

あともう一点。2000年代中頃までの円安は、量的緩和の効果だったと書いてあるが、本当だろうか。ITバブル崩壊を脱した好調な米国経済や、溝口介入の影響の方が大きいのでは。
(例えば今年3月の震災後、日銀当預は量的緩和期より積み上がったけど、円安になる見込みは全然無い。)

とはいえ、久しぶりに色々頭の体操ができて良い本でした。
特に巻末の補論は簡単な数式で、本文で出てきた色々な理屈を明快に証明していて良かったです。
posted by あうあう at 22:16| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月31日

[書評]「ポスト・マネタリズムの金融政策」

ポスト・マネタリズムの金融政策 [単行本] / 翁 邦雄 (著); 日本経済新聞出版社 (刊)

私自身、金融政策本はかなり食傷気味ですが、デフレ脱却がわが国経済にとっての喫緊の課題ですので、一応「日銀理論」を最新のものにアップデートしておくことは意味があるのではないかと思い読んでみました。

特に目新しい情報は無かったと思います。
ただ、M.フリードマンがカリスマ性を極めたマネタリストの時代、FRB議長だったボルカーがマネタリストの仮面を被りつつ、通貨集計量をガン無視した政策運営を行なっていたことは興味深かったですね。やはり内実よりも名目で民間経済主体を上手く欺くというテクも金融政策運営においては重要なのではないかと思料。
そういう意味では、日銀が足もとで進めている「包括緩和」というネーミングや、「資産買入等基金」の「等」に「共通担保資金供給オペレーション」を含めて、総額55兆円としてインパクトを与えるアナウンスメントは良いのではないかと思います。

あと、旧法下の日銀が、本予算の編成期に利上げすることができなかったという政治的な裏話も面白かったですね。

バブル崩壊後の強力な緩和にかける"Fed View" vs 金融的不均衡の蓄積それ自体を看過しない"BIS view"についても、論点がよく整理されていて良かったとおもいます。やはり信用の膨張が伴う資産インフレに対しては、利上げで対処せんといかんと思いました。まあ、果たして日本でそんな時代が再びやってくるのかな(*´ω`*)?

しかしながら、政策担当者が実用的に読むべき章は最後の2つでしょう。
第8章 デフレ脱却への方策(1)―中央銀行単独の選択肢
第9章 デフレ脱却への方策(2)―政府ができること


超過準備に懲罰的なマイナス金利を付与するとか、外債買うとか、政府発行紙幣出すとか、色々検討されてて面白かったです。
政府発行紙幣(無利子国債)でインフレを起こしても、インフレ抑制の際に中銀が有利子負債を発行してそれを吸収してしまうと、ALM的な観点でまずいという指摘は良かったですね。
「"包括緩和"は、5兆円という中央銀行の自己資本の内でできる最大限の努力」という締めくくりが、日銀理論の集大成すぎて( ;∀;) イイハナシダナー

いずれにせよ、僕も翁氏と認識を一つにするところは多く、デフレ脱却のためには、やはり政治のリーダーシップによって、実効的な成長戦略を着実に実行に移すことで需給ギャップを解消し、民間経済主体のマインドを改善してやることが、自律的な経済成長経路へのソフトランディングの手段として、最善の解だと信じております。

とはいえ、実質実効為替レートの話はちょっといただけなかったですね・・・。
「企業は輸出競争力を失ってないのに、2000年代半ばに甘やかされたから、ワガママ言ってるだけ」みたいな誤解は、学者・中央銀行家に広く見られる考え方であり、あまり誉められたものではありません。
posted by あうあう at 21:16| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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