2012年09月15日

為替制度雑感

民主党代表選は既にオワコンですが、他方、自民党総裁選は非常に活気があり、連日、世間の注目を集めております。

私個人は、石破茂候補ならびに林芳正候補を支持するものですが、その林芳正候補が変動相場制の見直しについて言及したことで、金融クラスタがクワーッと反発しました。
「固定相場制への回帰なんて本気で言ってんのか」
などという、それはもう過剰な反応でありました。

しかし、個人的に思うのは、「変動相場制」と「固定相場制」、それぞれのメリット・デメリットを比較せずに、そんな脊髄反射的な反応をして良いのかということです。

ご案内の通り、日本は戦後のブレトンウッズ体制下で、国際間の資本移動を制限することにより、固定相場制を維持してまいりましたが、1971年のニクソンショックを経て、73年に変動相場制へ移行し、現在にいたっております。

今日では空気のように当たり前になった変動相場制ですが、移行後は「海図なき航海」に突入し、円レートはひたすら漂流しました。特にプラザ合意後の円高への対応策として、国内では大胆な金融緩和措置がとられ、80年代のバブル景気を引き起こしてしまいました。

そして現在、超円高の継続により、エネルギー政策が混迷するわが国の立地競争力は著しく毀損されており、国内産業の「根こそぎ空洞化」は現実のものとなりつつあります。
(ちなみに、国際資本移動の自由度が高まるほど、銀行危機(金融危機)の発生頻度が高まるという相関関係もございますが、恐縮ながら、アップロード可能な図表は用意できておりません。)

「為替レートは市場が決めるもの」といったことを言う人もいらっしゃいますが、それも1970年代以降の国際通貨体制を前提とした一つの「ドグマ」であり、事実、90年代までは先進国による為替介入も珍しい現象ではありませんでした。
しかるに、変動相場制が固定相場制よりも優れているかどうかは、一般的に思われているほど明らかではありません。

「じゃあ、長年変動相場制を採ってきた日本が、米国財務省をはじめとするG7を説得し、固定相場制に戻ることは本当に可能なのか」と聞かれれば、それもやはり非現実的であります。
林候補もそこはきちんとわきまえており、本日の日本記者クラブ主催の公開討論会においても、

「固定相場制までは考えていない。米欧中を巻き込んだスネークまでの制度設計をイメージしている。日本はこれまで、変動相場制が一番良いと思ってやってきたが、投機的な資本移動により、アジア通貨危機や米国のサブプライム・バブルが引き起こされた。すなわち、実需を伴わない為替取引で富を得る過剰流動性が生じてしまっている。何らかの手段によってこれに歯止めをかけ、貿易決済など本当に必要な取引に携わる人々が、過度な為替変動に煩わされないようにすることこそが、真の市場経済である。また、通貨安競争も悪い傾向である。マクロの政策協調をやらないといけない。平成のプラザ合意だ。これがなければ、単独介入の効果にも限界がある。」

とおっしゃっており、まあスネーク(共同フロート)というのも、現実的にはどうかなという感じはありますが、しかし林候補の為替制度への問題意識は非常に共感するところであります。
足もとの為替制度のあり方を、少し立ち止まって考えてみること。これは、food for thoughtとしても有益なのではないでしょうか。

---------
蛇足ですが、米国のGOP(共和党)は金本位制への回帰を党のplatform(政策綱領)で謳っておりますが、まあこれはロン・ポール爺さんの意思を汲み取ったものであり、現実には実現しないでしょう。
posted by あうあう at 15:07| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月11日

問題は消費税か?〜一体改革関連法案が成立〜

昨日、「社会保障と税の一体改革」関連法案が成立しましたが、これに対するマスコミやネットの反応を見ておりますと、どうも「消費税率の引き上げ」ばかりが耳目を集め、「今後の社会保障制度がどうあるべきか」みたいな核心の部分には、全く誰も感心を示していないというのが、正直なところではないでしょうか。

もちろん、一体改革関連法のそれぞれの内容が具体的にどういうものなのかについて、理解している国民は極めて少ないでしょうし、実際に本会議の採決に臨んだ国会議員の先生方も、一部の政策通を除けば怪しいもんだと思ってます(つまり、大多数は、党の方針に従って粛々と投票しているだけなのではないかというのが私の下衆の勘ぐりです。)

官邸のHPにもある通り、昨日成立した関連法は、以下の8つから構成されます。
1.社会保障制度改革推進法
2.就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律
3.子ども・子育て支援法
4.子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
5.公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律
6.被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律
7.社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律
8.社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律
クワーッと騒ぎになっているのが、7と8ですが、例えば5には、年金受給要件の緩和や、社会保険のパートへの適用拡大の話が盛り込まれておりますから、モラルハザードや雇用への影響等を考えれば、もっと騒ぎになっても良かったようにも思われますし、民主党がマニフェストで掲げていた「新年金制度の創設」や、「後期高齢者医療制度の廃止」等については、1を根拠に新設される「社会保障制度改革国民会議」で今後1年間議論を継続すること(実質棚上げ)になるなど、消費増税以外にも論点は色々あります。

また、負担感という意味では、消費税は毎日お買い物するときに、以前よりも余計に払わなきゃいけないという意味で抵抗感が大きい一方、社会保険料については、被用者なら給料から天引きなので、あまり痛みを感じないという非対称性があります。つまり、朝三暮四というか、認知バイアスというか、同じ負担を求めるにしても、それを分かりやすいところでやるのか、分かりにくいところでやるのかで、世論の反応というのは雲泥の差が出てくるということです。僕自身も学生の頃は、社会保険料負担とか言われてもよく分からなかったですし。
(もっとも、税は再分配に向けるための負担であり、他方、保険料は「受益」とリンクした「応益負担」だから反応が違って当然だ、という議論もありますが、基礎年金拠出金や高齢者医療支援金という再分配システムの存在ゆえに、受益と負担の対応関係は極めて希薄になっているというのが最近の実態です。)
[参考記事:http://auauer.seesaa.net/article/243003035.html]

しかし、シンクタンクの分析では、既に社会保険料負担が家計の実収入に占める割合は消費税負担を遥かに超過しており、「2014・15 年の消費税だけに目を奪われると、勤労者への荷重が強まっていくことを見逃しがちになってしまう」というのは、真実を突いているのではないかと思います。
より単純化すれば、「社会保障制度を全世代が負担する消費税で支えていくのか、(今後どんどん数が減っていく)勤労者世帯が負担する社会保険料で支えていくのか」という二者択一を迫られていると言えます。

もちろん、増え続ける社会保障給付費財源を、消費増税だけで賄うのは限界があり、際限なき負担増を食い止めるためには、社会保障制度改革を通じた給付の効率化・重点化が欠かせない訳ではありますが、まずはこうした負担について、感情論を超えたデータに基づく事実認識を持つところが第一歩なのでしょう。

消費税も論点がたくさんなので、それについては次回以降のエントリーにしたいと思います。

○蛇足1
もっとも厚生年金保険料は2017年9月に18.3%の水準に到達するまで引き上げられるので、消費税を上げたからといって当面保険料が上がらないというのは嘘になります。さらなる将来の話ですね。

○蛇足2
実際のところ、日本の社会保障制度はとても複雑怪奇で分かりにくい分野なので、「社会保障目的の消費増税」と言っても、訴えるものは少ないような気がします。ここはやはり、「尖閣・竹島・北方領土を防衛するための臨時特別増税」という名目で課税できれば、それに越したことはないんでしょうね。世論の支持率もだいぶ違うでしょうね(*´ω`*)
posted by あうあう at 12:25| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月29日

日本の本当の豊かさ

4月の文藝春秋に発表された「新・日本の自殺」は、非常にペシミスティックに、わが国経済の行く末を小説仕立てで描いております。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/333

また、巷間で話題の「グローバル人材」という言葉も、ポジティブな意味では、「わが国の人材競争力を高め、それを経済成長に繋げていこう」という話なんでしょうが、悪い意味で言えば、「日本の将来を悲観し、海外へ脱出できる人材」というニュアンスもあるのかもしれません。

一部の知識人や政治家がしばしば、「米国では〜」「インドでは〜」という枕詞を多用するのも、このような、ちょっと自虐的な香りがします(冨山和彦はこれを「ではのかみ(出羽守)」と皮肉っていましたね。)

ただ見ようによっては、現時点での日本の豊かさのレベルは、悪くないどころか、世界一だったりするのではないかという話を今号のEconomistから。

The real wealth of nations
http://www.economist.com/node/21557732
20120630_FNC496.png

これは国連が開発したInclusive Wealthという指標で、国の豊かさをフローのGDPだけでなく、ストックも勘案して測ったらどうなるかという話でございます。
ストックは、
1.physical capital (機械・建物・インフラ等)
2.human capital (国民の教育・技術水準等)
3.natural capital (土地、森林、化石燃料等)
の3種類を含みます。

すると、図表でお示しする通り、日本は既にGDPでは中国に抜かれておりますが、Inclusive Wealthではダブルスコアで勝っています。(その額55.1兆ドル(約4,380兆円))。さらに、per capitaで見ると、米国を抜いて世界一となっています。

なるほど同記事で指摘の通り、GDPのみで国の豊かさを測るというのは、まさにバランスシートを見ずに、損益計算書だけで企業価値を判断するような所業に近いのかもしれません。

また、ストックにおけるnatural capitalには、綺麗な水や空気、生物多様性といった市場価格で評価できない要素は含んでおりません。日本は自然の美しさについても、やはり高い競争力を有していると思われますので、これらを加味したとしても、Japan as No.1の座は変わらないのではないでしょうか。

ただ、現時点で日本が世界一豊かな国であったとしても、現状に甘んじ、成長を放棄することとなれば、ストックは摩耗し、国民生活の豊かさは次第に失われてまいります。

そうならないためにも、成長と財政再建を同時に実現していかなければなりません。当ブログとしては、一体改革関連法案の早期成立を切に望むものであります。
posted by あうあう at 20:37| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。