2011年11月18日

TPP雑感

経済系ブログを標榜していながら、意図的に避けてきた話題について、
そろそろ軽く何か雑感でも書こうかと思いました。

時事通信の世論調査(11月10〜13)によりますと、TPPについて、52.7%が「日本も交渉参加すべき」、28.8%が「交渉参加すべきでない」、18.5%が「分からない」と回答したそうですが、やはり肌感覚として感じることは、ネット世論は圧倒的に反対派の声が強く、あまり賛否をこういう場で明確にするのは適切ではないと判断し、話題にするのはやめておりました。

今後も、Twitter以外でTPPに関しての個人的な賛否の表明は、極力差し控えていこうと思います。

今回のエントリーは、首相がTPP交渉参加を表明してから、具体的に何が変わったかという客観的な事実認識を整理する趣旨で書かせていただきます。

まず、日本が交渉参加を表明する前まで、TPPという略語は、欧米圏では全く認知されていない、かなりマイナーな専門用語だったと存じます。私自身、WSJやFT、Economistといった海外紙を眺めていても、TPPの扱いは非常に小さなものだったと記憶しております。

しかし、交渉参加表明後、それが大きく変わりました。
例えばFinancial Times(電子版)のトップ記事では、「アジア・環太平洋地域に米国が外交・安全保障の軸足を置き始めた」という話や、「中国が米国主導の貿易ルール作りに牽制球を投げた」といった話が、かなり頻繁に上がるようになりました。
これは、世界が明らかにTPPやASEAN+6をはじめとする、アジア・環太平洋地域の経済秩序、安全保障に大きな関心を持ち始めたということであると考えます。
中国も、今までは、アジアの経済秩序はASEAN+3を軸に作るべきだと主張し、インドの参加には消極的な態度を示しておりましたが、今般、日本がTPP交渉に参加表明をしたことで、これまで否定的だったASEAN+6についても、(日本が入った場合のTPPの影響力に対抗するという観点から)前向きな姿勢に転じました。

英Economist最新刊(2011年11月19日号)は、Leaders(社説)でTPPを特集しております。
20111119_LDC095.gif
Mr Noda's move could also transform the prospects of the TPP, most obviously by uniting two of the world's leading three economies but also by galvanising others. Until he expressed an interest, Canada and Mexico had also remained on the sidelines.
Unwittingly or not, Mr Noda has thrust mercantilist Japan into a central position on a trade treaty in which free movement of everything except labor is on the table.
http://www.economist.com/node/21538758

日本が国際社会に良い意味で影響を与えたというニュースは、私の記憶する限り、これまで久しくなかったと存じます。
(一方で、バブル崩壊後の失われた20年の経験や、震災によるグローバル・サプライチェーンの寸断など、ネガティブな意味で世界にインパクトを与えたことは幾度とあります。)
やはり、日本の参加によって、アジア・太平洋地域の覇権争いにおける戦略のパラダイムが、大きく変わったという点は、その賛否がどうであれ、認めざるを得ないところなのではないかと存じます。

これまで、ネット上の反TPPの論調を見ておりますと、ASEAN+6やFTAAPといった経済秩序構築に結びつけた経済戦略、あるいは対中外交戦略といった安全保障の文脈に絡めてTPPが語られることは殆ど稀で、ひたすら米国陰謀論に終始していたのは、ある意味で不幸なことであったと存じます。

米国がTPPを推進する目的は、近年急速に力を増しつつある中国への牽制であります。事実、TPPに最も懐疑的な国は中国です。米国が日本を一方的に搾取するといった思いこみと、被害者意識で突っ走るだけでなく、もう少し鳥瞰図的に、アジア全体の日本の位置も含めて、この交渉が何を意味するのかを考えてみる必要があるものと存じます。

※TPPがもたらす貿易・投資ルールや、農業・医療分野への影響といったQA的なものは、あまりに既出すぎるので別のところに譲ります。
posted by あうあう at 22:54| Comment(5) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月13日

[転載]Greece's woe

http://www.economist.com/node/21536597


記事を選んだ理由
“Political capital”という言葉に興味を惹かれた。政府の国民に対する説得力(ソフトパワー)は、わが国のTPP、増税などをめぐる議論を見ていても非常に重要だと感じる。
(“political capital" means the power that popularity confers on a politician.)

Discussion points
・「包括戦略」の評価(例えば、50%債務減免はCDSのデフォルト条項に当たらない可能性があり、国債の売却を加速しかねない。)
(参考)「包括戦略」のポイント
@ギリシャ国債による損失の負担額について、民間銀行の負担割合を、従来の21%から50%に引き上げ。A民間銀行は、自己資本比率を自力で5%から9%に増強。BEFSFの規模を4400億から1兆ユーロに拡大。
・現政権には、財政再建を実現するためのpolitical capitalがあるか(今のところ市場は、日本はまだ増税の余地があると見ている)。

背景知識
・10月27日のユーロ圏首脳会合が発表した危機克服に向けた「包括戦略」で、市場はいったん落ち着いたかのように見えた。しかし、突如のギリシャ国民投票の発表で、再び混乱。
・結局、国民投票は見送られ、11月4日のパパンドレウ内閣の信任投票も可決。
・11月11日、パパデモス新首相率いる連立政権が発足。
・今後、仮に政権内がまとまらず、IMF・EUによる金融支援が遅れることとなれば、12月にもギリシャは流動性破綻に追い込まれる。

記事のポイント
・Mr Papandreou has created an almighty mess, but he is better cast as the messenger than the villain…The spreads between Italian and German government debt had begun to widen well before Mr Papandreou dropped his bombshell…Last week’s summit deal – concocting a jerry-built firewall and asking the banks to boost their capital ratios by June next year – was not up to scratch.
・Mr Papandreou’s most important message: Until now the euro crisis has chiefly been about pressure from the markets. But a country’s finances are not defined by markets alone. Rather limits of solvency are tested by people’s willingness to accept tax rises and spending cuts. A government runs out of political capital long before it runs out of thing to tax. In the end, won’t pay matters more than can’t pay.
・パパンドレウ首相は、(与党内やメディアなどからの)緊縮政策に対する反発に悩んでいた。加えて、四半期ごとにEU・IMF・ECBからの審査を経ないと救済資金の一部を得ることができない。そこで反対派を飛び越えて、ユーロに残るか国民の信を問うこととした。
・(ギリシャのユーロ離脱の影響について)The gain in competitiveness from devaluation would be transient if, as is likely, wages inflated along with prices.
・The government must devote less effort to growth-destroying tax rises and instead undertake growth-promoting structural reforms. ⇒ 成長と財政再建は車の両輪。
・The euro zone’s emphasis on austerity rather than structural reforms has aggravated Greece’s political woes. Instead it should favor medium-term fiscal consolidation.

以 上

posted by あうあう at 23:59| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月12日

マクロ経済学の美しい等式─ISバランス式─

先日、「オイラーの贈物」の書評を書きましたが、
物理学者R.P.ファインマンはオイラーの公式について、
We summarize with this, the most remarkable formula in mathematics
    e^(iθ)=cosθ+isinθ
This is our jewel.
と述べたそうです。
私は経済学部の出身なので、ケインズ経済学の基本であるIS方程式
Y=C+I+G+NX
を変形したISバランス式、
S-I=NX
をjewelと言いたいぐらいですね。

要するにこの式は、

国内純貯蓄−国内純投資=経常収支

だと言ってる訳でして(固定資本減耗を考慮に入れたので"純")、これに

国内純貯蓄=民間純貯蓄+政府純貯蓄
国内純投資=民間純投資+政府純投資

を代入して、左辺を民間純貯蓄について解くと、

民間純貯蓄=政府純投資-政府純貯蓄+民間純投資+経常収支
⇒民間純貯蓄=財政赤字+民間純投資+経常収支


つまりこれは、民間純貯蓄が、@財政赤字(国債)、A民間純投資(民間純資本ストック増)、B経常黒字(対外純資産増)のいずれかに振り分けられるということを意味しております。

2009年度から民間純投資はマイナスに転じ、資本ストックは取り崩し局面に入りました。
これは、国内の生産活動を拡大させるための資本蓄積を止め、国債のファイナンスと(収益性の高い)対外純資産に、資本蓄積を絞り始めたということでございます。

今後、少子高齢化の影響により、(ライフサイクル仮説が示唆するように)左辺の民間純貯蓄の減少が予想されます。
すると徐々に、経常黒字をキープするのが難しくなり(もちろん当面は、貿易赤字を所得収支黒字が打ち消す構図が続く)、国債のファイナンスも苦しくなってくる。
そうなると、いよいよ経常赤字と高金利がわが国を襲うこととなります。
加えて、わが国の対内直接投資の低さが象徴するように、現状の民間資本ストックの収益率は低く、海外からの投資資金も期待できないため、高金利プラス、経常赤字による大幅な通貨安という、所謂「財政破綻シナリオ」が本当に顕在化することにもなりかねません。

しかし、ここで財政健全化への断固とした取り組みと、実効性のある成長戦略が、早急に実行に移されることとなれば、財政赤字は減りますし、民間純投資も増えることとなりますと、経常収支の赤字化のトレンドに大きな変化はないものの、民間資本ストックの収益率の高まりから、海外からの資本流入が起こりますので、通貨の大幅な減価は避けられることとなります。

これこそ、まさにわが国経済が目指すべき進路であります。すなわち、ISバランスの観点から見ても、日本に必要な政策は、財政健全化策と、資本収益性を高めるための成長戦略の2つであることは明らかであると存じます。

ニューケインズ学派のような、ミクロ的基礎付けを持つ最先端のマクロ経済学の立場に立てば、確かにケインズ経済学で出てくるようなIS式は、いかにも時代遅れの等式のようにも思われます。しかし、わが国経済のあり方を大まかに俯瞰する上では、このアプローチはとても簡便で、頭の中で何度も思考実験ができます。
このように、ISバランス式は基本的なマクロ経済学の出発点にして、大変美しい等式であると存じます。
posted by あうあう at 13:01| Comment(1) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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