2012年02月13日

製造業と非製造業

製造業と非製造業に関して徒然なるままに。

以前より、
「製造業は途上国の産業であって、ものづくりに拘泥する日本は周回遅れだ」
みたいな言説がネット上で跋扈してて、それがさらに、今般のエレクトロニクス企業の決算総崩れによって、
「やっぱり日本は、サービス業とか金融とか、非製造業種に立国した経済構造を目指すべきだ」
的な感じでエスカレートしそうな昨今、
果たしてそういう極論に、無条件に飛びついて大丈夫なのかという問題意識。

もちろんわが国のサービス産業の生産性の低さは以前より指摘されておりますし、
規制改革等を通じて、これらの産業を伸ばす余地は沢山あると思います。
特に接客業では、生産性に計測されないホスピタリティの部分で、高い国際競争力を持ってるのも確かです。

ただ、それだけを理由に製造業をdisるのって何か変だよねっていう。

先月、オバマ大統領が一般教書演説において、「製造業の復活」を目指す姿勢を鮮明にしたことからも推察されるとおり、
先進各国が世界的な低成長のフェーズに突入している今、求められるのは、
@そこそこ儲かって
A持続可能性が高くて
Bなるべく数の多い雇用が確保される
ような業種なんじゃないかなと。
そうなると、上記3条件を満たしているのは製造業ということになる。
(最近話題のフェースブックなんかは、Bが全然駄目だと。)

製造業は、大勢の人員を必要とする上、給与などの待遇面もあまり差がつきにくく、長期雇用慣行にも合理性がある。そうなると、安定した雇用を提供することができる。その点で、中間層の雇用を吸収する力が十分にある。
ところが、製造業の仕事は、コストの安い新興国に奪われつつあり、先進国経済の中心はサービス産業に移りつつある。これをどうしようもないと捉えるか、それとも、もうちょっと立ち止まって考えるか。
そういう論点なんだと思います。

ここ10年、日本では製造業は雇用者数を減らしまくって、一方で非製造業が雇用者数を増やしているのも事実。だけども、金融とかITとか、医療とか、先進国の新たな成長モデルとして期待されてるような分野では、専門性によって雇用者の待遇に大きな差が付いてしまうので、どこまで中間層の雇用を吸収できるのかなと。
そして、「中間層の没落」をいつまでも是認していると、資本主義の根底に関わる、民主主義や市場経済も揺らいでしまいますよねって。

*参考*
溜池通信 http://tameike.net/pdfs8/tame487.PDF

<蛇足>
1.
確かに、日本のGDPにおけるサービス業の寄与は結構大きいけど、
それでも、「鉱工業生産指数」に比べて「第三次産業活動指数」は、あんまりGDPの動きを捉えてなくて、
やっぱり経済活動の出発点には、製造業の生産があって、そっからの所得があって、そして派生需要としてのサービス業への需要があるんじゃないかなと思うところであります(仮説)。

2.
米国ではOWSで中間層の危機が取りざたされて、日本政府もなんかそれに迎合して「分厚い中間層」とか言い始めてますけど、中間層の危機なるものを危惧するような状態にあるとは、到底思えないんですよね。
例えば、エコカー減税とかエコポイントの期限前に、あそこまで耐久財の駆け込み需要が起きるなんてのは、分厚い中間層が存在してなきゃ有り得ない現象ですし。(まあ、足元の若年者失業の増加は、将来のその可能性を示唆するので楽観するわけではありませんが。)
なので政策的には、所得再分配で分厚い中間層を復活させましょうと言う前に、既にある分厚い中間層の経済活動を活性化させましょう、の方がよっぽど正しいような気がします。

うーん難しいですね(´・ω・`)
posted by あうあう at 22:49| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月30日

書評「アイデンティティ経済学」

アイデンティティ経済学 [単行本] / ジョージ・A・アカロフ、レイチェル・E・クラントン (著); 山形浩生、守岡桜 (翻訳); 東洋経済新報社 (刊)

これは読むべきかどうかは分からないですけど、なかなか示唆に富んでて良かったです。

落語家の故・立川談志師匠は、いみじくも
「人間のあらゆる行動は不快感から生ずる」
としばしば仰っておりましたが、これって実に深い言葉ですよね。

例えば、
「冬は厚着をする」⇒「厚着しないと寒くて不快だからそうする」
「ボランティアに行って人助けする」⇒「ボランティアしないと不快だからそうする」

そして、そこから導かれる結論は、
「現状は正解」
ということになります。(∵ 現状に不快感を感じているならば、それを変えようとしてる筈だから。)

このような行動を経済学的に説明するのが、アカロフの「アイデンティティ経済学」です。

訳者の山形浩生氏の解説を読めば、同書のエッセンスは大体分かってしまうのですが、
伝統的な経済理論における「古典的な効用」に、「アイデンティティ効用」を足し合わせたものを、
人間は最大化しようとして行動する。という考え方を、色々な事例で説明しています。

「古典的な効用」の分かりやすい例は、労働者供給を説明する際に用いる効用関数でしょうか。
労働者は、働くことで賃金(w)を得られる一方で、働くほど余暇(l)は失われる。
wが増加すれば効用は増えるが、それに比例してlが失わるので、効用は下がる。
労働者は、効用関数U=u(w,l)を最大化するように、「どれだけ働くか」を決める。


そして、これにプラスするのが、「アイデンティティ効用」です。
人は、自らが所属する社会的カテゴリを、意識的にしろ、無意識的にしろ選択する。
そのカテゴリの中には「どう振る舞うべきか」という規範・理想がある。
規範・理想と一致した行動を取れば、アイデンティティ効用の利得はプラスとなり、逸脱した行動を取れば、マイナスとなる。


例えば、学校の不良グループに属している人間は、授業をサボったり、喫煙をしたりと非行に走る傾向にある。
将来の利得を犠牲にしてまで、そのような不合理な行動を取るのは、集団内で「そう振る舞うべき」という規範があるからに他ならず、
多少の経済的利得が損なわれようとも、規範と一致した行動を取って、アイデンティティ効用を上げようとする。
こんな感じですかね。
いわゆる「破滅願望」を持つ人の行動原理も、これで説明できてしまうような気がします。

本書では、労働・教育・ジェンダー・人種など、様々な事例にこのフレームワークを適用し、人間の行動を分析しており、なかなか興味深い。

政策上のインプリケーションもありそう。
例えば、企業や経営者に愛着を感じ、一体感を持って働く労働者(インサイダー)は、多少の賃下げが行われたり、労働環境が悪化しようとも、離職しずらい。
一方、企業文化に馴染めない労働者(アウトサイダー)は、賃金が少し上がろうとも、辞めるインセンティブが大。
そこで、合宿研修とか積極的にやって、労働者みんなをインサイダーに引きこむことで、企業は結果的に労働コストを低く抑えることができる。と。

これって何か、選挙とか経済政策とかに応用できないですかね・・・。
posted by あうあう at 23:55| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月24日

経済成長と財政再建の両立

成長と財政再建の両立は、現政権の基本方針でもあり、長年のテーマでもあります。
もちろん、成長できないことを言い訳に、財政再建を先送りすることもいけませんし、
目先の財政再建で成長を犠牲にすることも良くないです。

いずれにせよ、中長期の財政の持続性について、
マーケットの信認を得ることが大切なのだと思います。

植田和男(東大教授)が「経済教室」に書いたように、
ギリシャをはじめとする欧州の債務危機は、ファンダメンタルズがどうこう以上に、
自己実現的に市場から財政破綻に追い込まれているケースであり、
また、青木浩介(東大准教授)が、同じく「経済教室」に書いたように、
中長期的な財政スタンスの健全化と、課税能力の強化に関するコミットメントを示し、それを民間投資家に理解させることが重要であると存じます。

そういう観点から、成長と財政再建の両立を捉えるのが良いと思います。

今週のロンドン・エコノミストでも、同じような問題意識の記事があったので紹介します。
The hangover(2日酔い)
http://www.economist.com/node/21543139

<要旨>
・米国における家計部門のBS調整は、既に1/3〜半分ぐらい済んでおり、2013年半ばには全て終わる。
・一方、欧州、特に英国は少なくとも10年かかる。
・米国のBS調整が早かったのは、家計が倹約的だからではない。不良債権処理や住宅差し押さえを一気に行ったから。
・英国は、不良債権処理が先送りされており、調整が遅々として進んでいない。
・BS調整のやり方を考える際、住宅バブル崩壊を経験した、1990年代のスウェーデンとフィンランドの事例は示唆的。
・スウェーデンは、先に民間部門のBS調整を終えて、景気が回復してから政府部門のBS調整を行った。
・フィンランドは、いきなり緊縮財政に走って、景気後退をもたらした。
・米国は、スウェーデンの成功事例に近い。
・経済成長なかりせば、政府債務の削減は難しい。今の欧州各国の緊縮財政は、それを例証している。
・欧州はまず、構造改革によって経済の効率性・生産性を高め、投資を呼び込み、成長することが重要。
posted by あうあう at 23:26| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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